再生医療


目 次

1.肝臓治療の現状と問題
2.臓器脱細胞化+iPS細胞という新しい技術
3.今後の展望

1.肝臓治療の現状と問題

肝硬変に対する治療の現状は移植治療を待つ患者さんにとって非常に厳しく、臓器機能を代替化する技術創出への期待は切実です。しかし現行の再生医療技術は、細胞や薄層組織、微細構造の移植を主体としているため、拒絶や感染・腫瘍化が起こった場合に摘出不能である上、臓器単位での機能発現に最も重要な、体内血流の供給と産生物質の「排泄経路」が欠落しているため、不全臓器機能を補うのに必要な「組織量」が不足しています。このままでは社会が真に求める臓器の代替化は非常に困難なのが現状です。


2.臓器脱細胞化+iPS細胞という新しい技術

体からすべての細胞を取り除くと透明なコラーゲンを主体とした細胞外骨格が残ることが知られています。このコラーゲン等の蛋白質が組織の自己修復に非常に重要な役割を担うことが示されていますが、我々は、この細胞外骨格の有効成分を効率的に抽出するための「臓器の脱細胞化技術」を開発いたしました(Nat Med 2010, Cell Transplant 2013)。肝臓治療の現状や再生医療開発の問題点を打破し、臓器レベルでの再生医療を実現化するために、我々は動物から摘出した肝臓を「脱細胞化処理」して人体に無害な臓器骨格のみを抽出し、その中にヒトiPS細胞由来の肝細胞・血管内皮細胞や肝前駆細胞を、残った血管の構造から逆に注入して、徐々に内部に細胞を充填していくことで、再生部分肝臓を作製し、肝不全動物を治療する研究を推進しています。(図)

図.臓器脱細胞化+iPS細胞という新しい技術|再生医療

3.今後の展望

ヒトiPS細胞を使った世界初の大型スケールの再生肝臓開発が成功すれば、臓器不全に対する治療戦略を根本的に覆す画期的な技術に発展することが期待できます。将来の実用化のイメージとしては、予め体格、年齢、病状に応じて数種類を準備した肝臓の骨格を保存・準備して、そこにヒトiPS細胞から分化誘導した細胞を充填してパッケージ化し、必要に応じて患者さんの元へ運ぶことが想定できます。再生医学が持つ本来の役割である「失われた機能を回復し生活の質を改善する技術」として大いに期待されます。

今後の展望|再生医療