より良い「膵切除」を目指して
腹腔鏡下膵切除


目 次

1.はじめに
2.膵臓の手術とは?
3.当院における膵切除術の現状
4.当院の膵切除の未来

1.はじめに

膵臓はだいたい20cmの大きさで図のように横長です。膵臓は人間の血糖値を下げるホルモンである「インスリン」や「アミラーゼ」といった消化酵素を分泌し、人間の消化吸収やエネルギー補給のコントロールを行っている重要な臓器です。
この膵臓には色々な腫瘍ができます。最も有名なのが「膵臓がん」です。がんの中でも最も顔つきが悪く医療が発達した今も約70%の膵がん患者は手術ができない状態で発見されます。次に膵臓にできる腫瘍として「膵のう胞」があります。大半は様子をみても問題ないものですが、長い経過で顔つきが膵がんのように悪くなることがあるため手術が必要になります。その他、「神経内分泌腫瘍」と呼ばれる特殊な腫瘍もできます。これらの腫瘍に対して手遅れになる前に早期に手術を含む様々な治療を行うことが、重要です。しかし、膵臓は胃の裏側で背骨の前方、からだの奥深くにある上に周囲には大きな血管があるため、膵臓の手術は非常に困難とされてきました。

図1.膵臓とは?|腹腔鏡下膵切除

2.膵臓の手術とは?

もともとは開腹手術でも膵臓の手術は難易度が高いと言われ、腹腔鏡手術が進歩した現在でも、腹腔鏡を用いた膵臓手術は限られた施設でしか行われていないのが現状です。
膵臓の手術には大きく2種類の方法があります。膵臓の頭にある腫瘍の手術のことを「膵頭十二指腸切除」、体部尾部にある腫瘍の手術は「膵体尾部切除術」と言います。後者は膵臓のしっぽを切り取るだけですが、前者は膵臓の頭だけではなく一緒にくっついている十二指腸や膵臓の中を通っている胆管も一緒に取らなければならず、残った膵管や胆管をもう一度腸とくっつける必要があるため手術時間も長くかかり、高度な技術が必要とされます。

図2.膵臓の手術とは?|腹腔鏡下膵切除

3.当院における膵切除術の現状

当院では、いち早く腹腔鏡手術を積極的に導入しており、膵臓の手術においても条件が揃えば腹腔鏡手術を行っております。

1)腹腔鏡下膵体尾部切除

図は、過去5年間の膵体尾部切除術の件数と腹腔鏡手術の割合です。腹腔鏡下膵体尾部切除術の対象となるのは、良性疾患や良悪性境界腫瘍とよばれる低悪性度の膵体尾部に発生した腫瘍、そして一部の膵臓がんです。このように、膵体尾部切除術においては、腹腔鏡が占める割合が年々増加しており、安全そして確実に手術を行えるようになっています。

図3.過去5年間の膵体尾部切除術の推移|腹腔鏡下膵切除

2)腹腔鏡下膵頭十二指腸切除

2019年からは膵臓の頭にある腫瘍に対しても腹腔鏡手術の採用を開始しました。
今まで開腹手術では、お腹に大きな縦一本(約20cm)の傷が必要でしたが、腹腔鏡手術で行えば、図のように5か所の穴から操作し、約6cmの傷で手術が済むようになります。整容面に優れているだけでなく術後の「痛み」や「回復」も早期に望めるようになりました。
当院では、膵臓がんではない低悪性度の腫瘍に関して積極的に導入しています。

図4.腹腔鏡下膵頭十二指腸切除|腹腔鏡下膵切除

3)機能温存膵切除

腹腔鏡の導入により、術後の疼痛や在院日数も明らかに改善しました。しかし、上の「膵臓を半分取る」という手術は、膵臓が本来作る様々なホルモンも同時に失うことになります。そのため、手術後に糖尿病を患いインスリン注射を余儀なくされる方や、消化吸収不良を起こす人が少なくありません。
そこで近年、膵臓にできる腫瘍のうち、良性のものや低悪性度のものであれば、腫瘍が残らない程度に小さく切除し、できるだけ正常な膵蔵の組織を温存する機能温存手術が可能となる場合があります。必要以上に過大な手術を避けることで、膵臓の機能を温存し、手術後の生活の質を保つということも我々は積極的に取り組んでいます。

図5.機能温存膵切除|腹腔鏡下膵切除

4.当院の膵切除の未来

2020年4月からロボット支援下膵切除術が保険収載されました。すでに泌尿器科や婦人科、また大腸、胃、食道といった臓器の手術で採用されており、腹腔鏡手術よりも操作性が良好で安定した技術で手術を行うことができるため、我々も積極的に導入していきたいと考えています。
それに向けて、我々はロボット膵臓手術をたくさん経験している世界で有数の病院である 台北栄民総病院(Taipei Veterans General Hospital)に見学に伺い、ロボット手術の勉強を定期的に行なっています。現在、当院でのロボット膵切除の申請中ですが、実現化するまでにトレーニングを重ねていきます。

図6.当院の膵切除の未来1|腹腔鏡下膵切除
図7.当院の膵切除の未来2|腹腔鏡下膵切除